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札幌高等裁判所 昭和59年(う)65号 判決 1985年3月20日

主文

原判決中、被告人両名に関する部分を破棄する。

被告人稲場厚美を懲役二年に、被告人山田道彦を懲役一年六月にそれぞれ処する。

被告人稲場厚美に対し原審における未決勾留日数中七〇日をその刑に算入する。

被告人山田道彦に対しこの裁判確定の日から四年間その刑の執行を猶予する。

原審における訴訟費用中国選弁護人森越清彦に関する分は被告人山田道彦の負担とする。

理由

本件各控訴の趣意は、被告人稲場の弁護人田中宏提出の控訴趣意書及び被告人山田の弁護人森越清彦提出の控訴趣意書に記載されたとおりであるから、これらを引用する。以下の記述において、原判決が用いた略語例は、すべて本判決においてもこれを用いる。

各控訴趣意中、被告人稲場自身は原判示第一及び第二の各試験問題の窃盗の実行行為をしていないと主張する点について

各所論は、要するに、被告人稲場自身は、原判示第一及び第二の各試験問題を盗み出しておらず、同被告人の依頼に基づき他の自衛官が試験問題をプリントしたセルロイド版を入手して同被告人に送付し、同被告人がこれを用いて試験問題のコピーを作つて被告人山田に渡したにすぎないから、同被告人が実行行為をしたと認定した原判決には事実の誤認がある、というのである。

しかしながら、原判決挙示の関係証拠によれば、被告人稲場が原判決の「罪となるべき事実」第一及び第二の各試験問題を窃取した事実は当裁判所においてもこれを是認することができる。

この点について、被告人稲場は、当審公判において、原判示第一及び第二の各試験問題とも自分は盗み出しておらず、右二回とも、自分が、総監部人事班に関係のある名前のいえない二名に対して、別々に試験問題の入手方を依頼したところ、そのうちの一名から試験問題をプリントしたセルロイド版ようのものが自分の勤務隊へ送られてきた、依頼した二人の人物のうち、どちらから送つてきたかはつきりしない、送付を受けてから、右二人に対して金銭を送つたことはない、お礼の言葉を述べたかどうか、はつきりしないなどと述べ、原審第一三回及び第一四回公判においても、右各試験の試験問題の入手方は、第三者に依頼し、原判示第一の試験については試験問題のコピー、また、原判示第二については、試験問題をプリントしたセルロイド版のようなものが送られてきた、なお、原判示第二については、右のほか数人からも問題のコピーが送られてきたなどと供述するが、これらの供述内容は、きわめてあいまいかつ不確実なものであり、原審供述と当審供述との間に変せんも見られること、その他この点に関する原判決挙示の関係証拠と対比すると、右公判供述は到底信用することができない。原判示第一及び第二について所論指摘のような事実誤認はなく、論旨は理由がない。

各控訴趣意中、被告人山田には窃盗の故意はなく、また、実行行為者とそうでない者らとの間に共謀共同正犯の関係はないと主張する点について

各所論は、被告人山田は、原判示の各試験問題は陸幕の関係者中、試験問題を扱える人から被告人稲場に送られてきたものと考えていただけであり、被告人稲場がこれらを窃取するとか、窃取したなどと考えたことはないから、被告人山田には原判示の各窃盗についてそもそも故意はなかつたものであると主張するほか、被告人山田に関する所論は、原判示第一ないし第七、第九、第一二及び第一六の各窃盗について、被告人山田と被告人稲場、原審共同被告人田野邉との間に共謀共同正犯の関係があるとはいえないのに、これを肯定した原判決には事実の誤認又は刑法六〇条の解釈適用を誤つた違法があると主張し、被告人稲場に関する所論は、原判示第一ないし第七、第九、第一二及び第一六の各窃盗について、被告人稲場と被告人山田、原審共同被告人千葉との間に共謀共同正犯の関係があるとはいえないのに、これを肯定した原判決には事実誤認又は刑法六〇条の解釈適用の誤りがあると主張するのである。

そこで検討すると、原判決挙示の各関係証拠に被告人両名の当審公判における各供述、被告人両名の司法警察員(警務隊員)に対する各供述調書等を総合すると、本件に関して次の諸事実が認められる。

被告人両名及び原審共同被告人千葉、同友貞、同田野邉は、いずれも本件当時陸上自衛隊に勤務していたものであり、各人の経歴、地位、相互間の交際の状況等は、原判決の「罪となるべき事実」及び「補足説明」に判示されたとおりであること、また、稲場が原判示第一ないし第七、第九、第一〇、及び第一六の各日時、場所において、いずれも同人が単独で直接手を下して、それぞれ同掲記の試験問題を窃取したこと、また、原判示第一二、第一三記載の各日時、場所において、いずれも稲場が田野邉とともに協力して、それぞれ同掲記の試験問題を窃取したこと、このようにして各窃取された試験問題のコピー又はこれについての解答結果などが、稲場から直接又は山田、千葉、友貞らを介して、それぞれ各試験の受験希望者らに渡されるなどしたこと、山田、千葉及び友貞らにおいては、これらの各窃取行為に直接関与しておらず、また、各窃取行為が行われる際その現場又はその付近などにいて、窃取に必要かつ密接な行為をしたりしたこともないことは明らかである。

そこで、右各窃盗について、原判示のように、稲場、田野邉と山田、千葉、友貞との間にそれぞれ共謀共同正犯の成立を肯認することができるかどうかであるが、全証拠をもつてしても、稲場らと山田らとの間に各窃盗を行うことについて共謀があつたと認めることはできず、単に山田らにおいて、その関係する各窃盗の際に、稲場に対して窃取にかかる試験問題のコピーを他に売りつけることを約するなどして、稲場らの各窃盗行為を容易ならしめてこれを幇助したとの事実を肯認しうるにすぎない。この点を更に詳述すると、次のとおりである。

山田らが本件の各窃盗の実行行為に関与しておらず、その遂行に必要かつ密接な行為にも関与していないことは右のとおりであるから、山田らと稲場らとの間に共同正犯の関係を肯定しうるためには、両者の間に各窃盗について共謀が行われ、稲場らの窃取が双方の「共同の意思にもとづい」て行われたという関係が認められなければならない。

そこで、このような共謀の事実があるかどうかであるが、まず、山田と稲場との間の原判示の各試験問題の窃取をめぐる交渉の状況等は、次のとおりである。

稲場は、昭和四五年三月ころから昭和四九年九月までの間、総監部において人事担当陸曹として、幹部昇任試験実施事務を取り扱つていたが、その間の昭和四九年六月施行の幹候試験に際し、試験問題が東京の陸幕から一包み余分に送付されてきたことから、かねて好感を持つていた山田を合格させようと考え、同人に試験問題を交付して、同人を右試験に不正合格させたこと、これが契機となつて、両名は親しく交際するようになつたが、その間、山田は、稲場から、その部下又は知人の中で幹候試験や三尉候試験の受験希望者がいるならば試験問題のコピーを売りつけてほしいなどと依頼されたこと、そこで、山田は、原判示第一ないし第七、第九、第一二及び第一六の各試験の前のころ、部下や知人などから各試験問題のコピーの入手の希望者を物色し、若干の謝礼を出せば試験問題のコピーが入手できるなどと告げて、希望をつのり、これを稲場に伝え、その都度、稲場からその窃取した試験問題のコピーを受取つて、右希望者らに渡すなどし、それらの者から、多数回にわたり、謝礼などとして合計約一四〇万円を受け取り、そのうち約一九万円くらいを自分の手許におさめ、その余を稲場に渡したこと、しかし、山田は、稲場らのこれら試験問題の入手源について詳細な説明を聞いたことはなく、単に陸幕関係者から送られてくるなどといわれたことがあるだけであり、そのため、山田においては、稲場が直接又は同人と意思を相通じた陸幕の係官などが試験問題保管場所などから試験問題をその管理者の占有を侵害して盗み出してくるものであろうという程度の認識をもつていたにすぎないこと、山田が稲場に対し、試験問題のコピーの入手方を依頼するときには、各試験問題の必要科目を告げるなどしていたが、それ以上窃取の具体的方法などについて、稲場との間で相談、打合わせ、謀議などをしたことはなく、稲場から窃盗の遂行について協力を求められたりしたこともないこと、山田が原判示のような長期間にわたつて、コピーの入手希望者に関する情報を稲場に伝え、コピーや解答結果をこれらの者に売りつけるなどしていたのは、当初、稲場からこれを依頼されたことによることのほか、山田が以前に稲場の配慮により自分が不正合格させてもらつたことについて義理を感じていたこと、また、試験問題のコピーの売りつけの斡旋により自分も多少の利益をうることができるという気持や、自分の部下や知人をして試験に合格させ、その栄進に力を貸し、人脈作りにも役立たせようという気持も含まれていたこと、しかし、山田において、自身で試験問題を盗み出そうという考えをもつたことはなく、稲場に対して試験問題のコピーの売りつけを斡旋してやることによつて、稲場の各試験問題の不正入手を助長することになると考えていたが、稲場と共同で右各試験問題の窃取を続けてきたというような意識は全くなかつたこと、稲場においても各窃盗について山田と共同して窃取しているという意識はなかつたことなどを認めることができる。

このような事実関係に照らすと、山田は稲場の各試験問題の窃盗に際し、稲場に対し、そのコピーの入手希望者を紹介し、かつコピーを売りつけることを約することにより稲場の各窃取行為を容易ならしめ、助長したということはできるが、山田と稲場との間で窃盗自体について共謀が行われ、これによる共同意思の実現として稲場らが各窃盗を行つたとみることはできない。

原判決は、山田が稲場に対して各試験問題の必要科目を明示又は黙示に指定するなどして入手を依頼した状況、その内容、時期、更に稲場が山田の右依頼に応じて右各試験問題の窃取を決意し、これらを窃取する実行行為に及んだ経緯、その結果山田が入手しえた各試験問題の利用状況などを総合すると、山田は稲場と共同意思のもとに同人と一体となり稲場又は同人と意思を相通じた者の行為を利用する意図で各試験問題の入手方を依頼することにより、自己の意思を実行に移そうとしたものと評価できる、としている。しかし、前記の各事実関係、とくに、山田は稲場から右試験問題の窃取方法について具体的に説明を受けたことはなく、また、これについて詳細な知識をえようとしたこともないこと、窃取方法などについて相談、打合わせなどしたことは全くないこと、山田が稲場に対して試験問題のコピーの入手希望者を知らせたり、コピーを売りつけるなどしたとしても、それは、もともと稲場からコピーの売りつけを頼まれたことによるものであつて、山田自身の固有の強い動機、利益、関心によつて、同人の方から積極的にその入手方を依頼したとまでは認め難いこと、山田が窃取行為自体について稲場に対して心理的拘束を感じさせるほど強く働きかけた形跡はないこと、両者いずれも共同で窃取行為をするという意識をもつていたことはないことなどに照らすと、両者が共同意思の下に一体となつて、互いに他の行為を利用して右各窃盗を行つたなどということはできない。山田と稲場との間に共謀共同正犯の関係を認めることはできない。

次に、千葉は、同人が昭和五四年の幹候試験を受験した際、あらかじめ山田から試験問題のコピーの交付を受け、同試験に不正合格し、その際、右コピーの代価として山田を介して稲場に一〇万円を渡したものであるが、自分も右コピーないしその解答結果を受験者に売却して金もうけをしようと考え、山田を介して稲場に原判示第九、第一二及び第一六の各試験問題のコピーの入手方を依頼し、稲場又は山田あるいは真駒内駐屯地などの業務隊の人か総監部の人又は陸幕の人などが試験問題の保管場所から盗み出すものと認識し、稲場から直接又は山田を介して、窃取された試験問題のコピー又はその解答結果を渡され、その対価を山田を介して稲場に支払つていたこと、これらの行為を通じて稲場の窃取行為を容易ならしめたが、稲場の窃取行為自体について関与したことは全くなく、また窃取の方法等について相談、打合わせ、謀議などをしたこともなく、千葉において稲場と共同で各窃盗を行うとか又は行つたとかの意識はなく、稲場においても千葉と共同で各窃盗を行つたという意識は全くなかつたことが認められる。原判決が千葉と稲場との間に共謀共同正犯の成立を肯認したことには賛同し難い。

友貞と稲場との間にも、共謀共同正犯の成立を肯認するに足りる証拠はない。

次に、原判示第一二の窃盗について稲場と共同して実行行為をした田野邉と山田との間においても共謀共同正犯の関係を肯認するに足りる事実は認められない。

そうすると、原判示第一ないし第七の各窃盗について稲場と山田との間に、原判示第九の窃盗について稲場と山田、千葉との間に、原判示第一〇の窃盗について稲場と友貞との間に、原判示第一二の窃盗について稲場、田野邉と山田、千葉、友貞との間に、原判示第一三の窃盗について稲場、田野邉と友貞との間に、原判示第一六の窃盗について稲場と山田、千葉、友貞との間に、それぞれ共謀共同正犯の成立を肯定した原判決には事実の誤認があるか又は刑法六〇条の解釈、適用を誤つた違法があるといわざるをえなく、そして、原判決は、以上の各窃盗と原判示第八、第一一、第一四及び第一五の各窃盗とを刑法四五条前段の併合罪として処断しているので、各控訴趣意中その余について判断をするまでもなく、原判決中被告人稲場、同山田に関する部分は全部破棄を免れない。

よつて、刑事訴訟法三九七条一項、第三八〇条、第三八二条により、原判決中右部分を破棄し、同法第四〇〇条但書により、更に次のとおり自判する。

(罪となるべき事実)

当裁判所の認定する「罪となるべき事実」は、原判決のそれの一部を左記のとおり改めるほかは、これと同一であるので、これを引用する。

一  原判決の「罪となるべき事実」第一ないし第七中、「被告人稲場、同山田の両名は、共謀のうえ」とある部分は、いずれも「被告人稲場は、」と改め、同第七につき、さらに「同年六月一日施行」とあるのを、「同年六月一一日施行」と訂正し、各末尾の「窃取し、」の次に、「その際、被告人山田は、被告人稲場に対し、その窃取する試験問題のコピーを他に売りつけることを約束するなどして、同被告人の右犯行を容易ならしめて幇助し、」を加える。

二  原判決の「罪となるべき事実」第九の「被告人稲場、同山田、同千葉の三名は、共謀のうえ」とあるのを、「被告人稲場は」と改め、その末尾に「その際、被告人山田は、被告人稲場に対して、その窃取する試験問題を他に売りつけることを約束するなどして、右犯行を容易ならしめて幇助し」を加える。

三  原判決の「罪となるべき事実」第一〇の「被告人稲場、同友貞の両名は共謀のうえ」とあるのを、「被告人稲場は」と改める。

四  同事実第一二の「被告人稲場、同山田、同千葉、同友貞、同田野邉の五名は、共謀のうえ」とある部分を、「被告人稲場は、原審共同被告人田野邉と共謀のうえ」と改め、その末尾に、「その際、被告人山田は、被告人稲場に対してその窃取する試験問題のコピーを他に売りつけることを約束して、右犯行を容易ならしめて幇助し」を加える。

五  同事実第一三の「被告人稲場、同友貞、同田野邉の三名は、共謀のうえ」とある部分を、「被告人稲場は、原審共同被告人田野邉と共謀のうえ」と改める。

六  同事実第一四、第一五の「被告人稲場、同田野邉の両名は、共謀のうえ」とある部分を、いずれも「被告人稲場は、原審共同被告人田野邉と共謀のうえ」と改める。

七  同事実第一六の「被告人稲場、同山田、同千葉、同友貞の四名は、共謀のうえ、」とある部分を、「被告人稲場は」と改め、その末尾に「その際、被告人山田は、被告人稲場に対してその窃取する試験問題のコピーを他に売りつけることを約束して、右犯行を容易ならしめて幇助し、」を加える。

(証拠の標目)

右事実全部につき、被告人稲場、同山田の当審公判における各供述、被告人両名の司法警察員(警務隊員)に対する各供述調書を加えるほか、原判決の掲げる関係各証拠と同一であるから、これを引用する。

(法令の適用)

被告人稲場の判示第一ないし第一六の各所為は刑法二三五条(判示第一一ないし第一五につき、さらに刑法六〇条)に、被告人山田の判示第一ないし第七、第九、第一二、第一六の各所為は同法六二条一項、二三五条にそれぞれ該当し、被告人山田の右各所為は従犯であるから同法六三条、六八条三号により法律上の減軽をし、右各罪は、各被告人ごとに同法四五条前段の併合罪であるから同法四七条本文、一〇条により、被告人両名につき、いずれも犯情の最も重い判示第一二の罪の刑に法定の加重をした各刑期の範囲内で、被告人稲場を懲役二年に、被告人山田を懲役一年六月にそれぞれ処し、同法二一条を適用して、被告人稲場につき原審における未決勾留日数中七〇日をその刑に算入し、情状により同法二五条一項を適用して、被告人山田に対しこの裁判確定の日から四年間その刑の執行を猶予し、刑事訴訟法一八一条一項本文により、原審における訴訟費用中国選弁護人森越清彦に関する部分は被告人山田に負担させることとする。

(量刑の事情)

本件は、陸上自衛隊北部方面隊に属する被告人稲場が単独あるいは他の共犯者と共謀のうえ、自衛隊内において幹部を選考するため全国的規模で実施される幹候及び三尉候の各試験あるいは陸曹の昇任選考の資料とするため北部方面隊内で実施される陸曹試験問題を窃取し、被告人山田はこれを幇助した事案である。各試験のうち、幹候試験は陸上自衛隊幹部への登龍門であり、三尉候は、中堅幹部の尉官を登用するための試験であり、いずれかの試験、とくに幹候試験に合格することは、自衛隊内において、その後の昇任、俸給、定年、待遇などに大きな相違が生じるものであるため、競争倍率が高く受験有資格者の所属部隊は多数の合格者を出すことを名誉として受験勉強を奨励し、受験者もこれに答えて合宿訓練を受けるなどして勉強している状態にあり、陸曹試験は、陸曹としての昇進にあたりその成績が考慮されるものであり、いずれの試験問題も重要な意義をもつものであるが、被告人らは幹部自衛官としての立場もわきまえず、本件各犯行に及んだものであり、右各犯行により試験の公正に対する自衛隊内及び一般の信頼をき損し、真面目に勉強して受験した者に不合格の憂き目にあわせたうえ、被告人らの甘言にのせられ不正に関係した多数の者もまた本件の発覚により懲戒処分を受け退職を余儀なくされるなどしていることをも考えると被告人らの刑事責任は重大である。

被告人稲場は、原判示の全事実に係わり、巧妙な方法でその大半の実行行為をし、一〇〇万円をこえる利得もしていて、その犯情は悪質である。被告人山田は、昭和五一年から昭和五七年の幹候試験、昭和五一年から昭和五三年の三尉候試験に係わり、また原審共同被告人千葉を共犯者に入れるなどしたもので、その犯情は軽視し難い。

しかしながら、他方、本件各試験はいずれも自衛隊内部の試験であり、各試験問題は秘文書に準じた扱いとされることになつていたのにかかわらず、その管理がはなはだずさんであつたこと、以前から試験問題が漏洩しているなどと噂されながらその徹底的な究明がなされていなかつたこと、被告人両名とも前科前歴はなく一般社会における犯罪傾向はうかがわれないうえ、懲戒免職となるなど相当の制裁も受けていること、特に被告人山田は、本来の職務には忠誠を尽していたものであるところ、被告人稲場に誘われて犯行に加担したものであり、経済的利得も少なく、捜査、公判を通じて、自己の認識、記憶するところに従つて事実を率直に語つていることなどの事情を参酌すると、被告人稲場にはその刑の執行を猶予するほどの事由はないが、その刑期を減じ、被告人山田に対してはその刑の執行を猶予するのが相当である。

よつて主文のとおり判決する。

(渡部保夫 横田安弘 肥留間健一)

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